登入門は、昔と同じ音を立てた。
車が中へ入ると、ムジンは窓の外を見た。整った木々と芝生。水がたまらないように造られた道。
玄関で靴の底は確かめなかった。入る前に、まず自分の名を告げた。
使用人はお待ちしていましたと言い、応接室へ案内した。
ムジンは戸口で止まった。
ペク・ジェギョンが、ソファに座っていた。
* * *
「昨日より、きちんとした格好だな」
ジェギョンが言った。
ムジンは答えなかった。父は遅れるという。先に事業資料を説明するよう指示された、と続いた。
向かいに座った。
ジェギョンがファイルを開いた。林道の拡幅、投資金、
電話を受けたドユンは、午後に訪ねてきた。以前のように、まっすぐ部屋へは入らなかった。使用人に会ってよいか確認し、応接室で待った。イヒョンは、その小さな変化に気づいた。向かいに座った。ドユンが鞄から工事資料を出した。家族の事業顧問のつながりで確かめた日程だった。「林道は止まってる。でも、ほかの区域まで止まったわけじゃない」イヒョンはうなずいた。説明を終え、ドユンが書類を寄せた。「どこまで手伝えばいい?」答える前に、イヒョンは彼の顔を見た。何でもするという言葉より、今必要な問いだった。* * *「ご両親に会いに行こうと思って」イヒョンが言った。ドユンは少し目を閉じ、開いた。「ムジンさんの?」「うん」すぐには止めなかった。代わりに、ムジンに話したかと聞いた。話したと答えた。一緒には入らないつもりだとも言った。「それは、二人で決めたこと?」「まだ話してるところ」ドユンは背もたれに体を預けた。以前なら、自分のほうが長く知っているからと、先に正解を告げただろう。今日は、イヒョンが整理する時間を待った。イヒョンの肩から少し力が抜けた。*
朝食は別々だった。イヒョンは部屋で食べ、ムジンは食堂へ下りた。隣の椅子を引いておき、また戻した。使用人が一人分のお茶を注いだ。ムジンは冷めるまで座ってはいなかった。整理する資料があった。父の返事を待つことと、イヒョンの扉の前に居続けることは、違うことだった。研究室へ林道工事の停止文書を提出し、変更の可能性も伝えた。不利な条件を隠し、よい知らせとして伝えるわけにはいかなかった。担当者は書き留めた。「標本は予定どおり検証します。工事の日程が変わったら、すぐにお知らせください」ムジンはうなずいた。二人の関係と治療を、一枚の取引にまとめてはいけなかった。* * *ソリンにも同じことを話した。電話の向こうが、しばらく静かだった。「イヒョンさんは、知ってますか」「はい」「怒ったでしょうね」ムジンは答えられなかった。ソリンは慰めなかった。代わりに、区域を外す費用について、自分も調べると言った。「工事で失うのは、イヒョンさん一人の薬じゃありません。商売をしている人たちの資料も集めます」ムジンは電話を握り直した。その言葉で初めて、ほかの人々が見えた。イヒョンを救えないかもしれない恐れで、視野が狭まり、山をまともに見ていなかった。「一緒にやります」 
「実家へ戻ります」ムジンが言った。イヒョンは紙を見なかった。「どのくらい?」答えられなかった。イヒョンは椅子から立った。急いで動かず、ムジンと同じ高さで顔を見ようとした。「僕のそばを離れると、約束したんですか」ムジンの目が揺れた。言葉にならない答えが、先に聞こえた。イヒョンはもう一度聞いた。「治療のために?」ムジンがうなずいた。温室には水をまく音だけがあった。自動装置が、決められた時刻に動いていた。何も知らない水滴が、ガラスの下を流れた。イヒョンは椅子の背をつかんだ。* * *「僕は、その約束に同意していません」ムジンが口を開いた。「今、作業を止めなければ――」「わかってます」イヒョンの声が上がり、また低くなった。「場所を失うのが怖いことも、時間がないことも、わかってます」ムジンを見た。「だったら、僕にも怖いと言ってほしかった」ムジンは顔を伏せた。イヒョンは涙を拭かなかった。泣けば弱い人間に見られるかと、こらえることにも疲れた。「僕を好きなのが恥ずかしければ遠ざけて、生かしたければ
ハン・ジョンオは、会議を終えた資料を広げた。林道工事を一時停止し、上流の機材を撤去するという文章があった。沢の中心区域は、今後の検討対象となっていた。ムジンは期間を尋ねた。「六か月だ」「その間に研究が終わらなければ?」父が見た。「そのときは、おまえがここで判断すればいい」意味はわかった。先に戻らなければ、次の交渉もできないということだった。父が隣の書類を押し出した。家業への復帰確認書。ムジンは受け取らなかった。「沢を保護する文書と、その書類を結びつけないでください」ハン・ジョンオの口元が固くなった。* * *「私が会社に求める理由も必要だ」父が言った。ムジンは会社の損失明細を見た。数字の桁が多かった。自分が知らないからといって、費用が消えるわけではなかった。尋ねた。「沢の区域を外して、設計を変えるための費用ですか」「すべてではない」「別の財源を確保できたら?」ハン・ジョンオが短く笑った。「山で稼いだ金でか」ムジンは言い返さなかった。箱の封筒をソンウに預けたと言いたかったが、まだ確かめていない財産で虚勢を張ることはできなかった
オ・ソンウは事業資料を見ると、首を振った。「口で止めると言うことと、実際に止まることは違います」ムジンは父の条件を伝えた。ソンウはすぐに、関係について判断しなかった。代わりに、どの工程を、いつまで止めると言われたのか尋ねた。ムジンは答えられなかった。父は、自分が調整するとしか言っていなかった。ソンウは紙に、必要な項目を書いた。区域、期間、搬入済みの機材、会議での決定、費用を負担する主体。紙を差し出した。「どのような選択をなさるにしても、沢が守られるという部分は、確認が必要です」ムジンは受け取った。人のそばを離れさえすれば、解決することではなかった。* * *研究室では、同じ標本を分ける作業が始まっていた。イヒョンは担当者に、自分の同意内容を確認し直していた。研究が止まっても、今受けている治療は続けられるのかと尋ねた。ムジンは外で聞いた。イヒョンは自分の状況を知ろうとしていた。怖くても、質問を避けなかった。誇らしかった。それなのに自分は、イヒョンに尋ねず、イヒョンのための決定を準備していた。扉が開くと、ノートを背中に隠しかけて、止めた。紙の角が指に食い込んだ。たやすく隠す仕草が、どれほど身についているか、自分でもわかっていた。その馴染み深さが、いっそう恥ずかしかった。イヒョンが紙を見た。「事業の資料
聞き間違えたのだと思った。けれど父は繰り返した。「会社のことは、私が調整する。おまえは戻ってこい」「それが、沢と何の関係があるんですか」「おまえが戻れば、家の跡継ぎの問題を片づけられる」ハン・ジョンオは引き出しから、古い家系の書類を出した。ムジンの名の先に、空いた婚姻欄が見えた。離れていた十年の間も、その空欄は、ほかの人に埋められるのを待っていたらしい。ムジンは紙を押し返した。「結婚しに来たんじゃありません」「だから、あの人間と離れなければならない」母はカップを見ていた。反対はしなかった。* * *ムジンは研究資料をもう一度説明した。標本は、金ですぐに代えられるものではない。沢がなくなれば、どんな治療が可能だったのか、確かめる機会までなくなる。ハン・ジョンオは聞いていた。理解できないから条件をつけたのではない。そのことが、余計につらかった。「本当にあの子を思うなら、決められるだろう」父が言った。ムジンは息を止めた。イヒョンを思う気持ちを、そのそばから去る理由に変える言葉だった。椅子から立った。「今日は、答えません」母がすぐに顔を上げた。「また、連絡を絶つつもり?」